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人また人と出会う

海辺の松林を散歩した。5月なのに蝉が鳴いていて驚く。
しゃんしゃんしゃんと元気よく鳴くというよりも、
季節外れに驚き、ためらうような鳴き方だった。
このまま春も秋も無くなってしまうのは嫌だと思った。
前から来たおじいちゃんに「こんにちは」と挨拶したら無視された。次は声をもっと大きくしようと思う。
海辺に出て貝拾いをしようと思ったら玉砂利しか無くて諦めた。遠目に見ると穏やかなのに、近くに寄って見ると意外に波は高い
実家猫のような挙動のたぬきを目撃して、チチチッと声をかけてみたが無視された。次はもう少し遠目に声をかけてみようと思う。

蝉に釣られて直売所でそうめんを買ったが、私の体はまだ急な暑さについていけず半分残してしまった。
昨日は久しぶりに自転車を漕いだ。
向かい風の中川沿いを走る。自堕落な生活が続いて気づいたら体重が2㎏増加していた。汗をかきたいのにかけない。水分不足だからと100円自販機で水を購入する。

水を飲んでいたら軽トラのおじいちゃんに話しかけられた。
この暑いのにサイクリングかえ?
と聞かれる。はいそうですと流れるように返事をする。そこから3分程会話をした。9割はおじいちゃんが話していたけど楽しかった。私も負けじと話題を詰め込もうとしたが、やはり年長者には敵わず。
おじいちゃんの隣には黒柴わんこがおとなしく座っていた。
初めて会う人間に興奮するでもなく、吠えるでもなくただじっと座って飼い主の会話が終わるのを待っている。陰ながらに家庭を支える妻のような貫禄であった。正直おじいちゃんよりも黒柴わんこと話したかった。

図書館で予約していた本を受け取りに行った。
少年図書館とあるように若者を啓発するようなシリーズ本だろうか。
そんな印象で読み始める。
私はあまり本を読んでこなかった。文章を読んでいても文字が滑ってしまい内容がすっ飛ばしになってしまうし、読みながらも他のことを考えたりしてしまう。
しかしこの本は頭の中で情景がありありと浮かび夢中で読むことができた。知らない人、知らない土地、知らない生活なのに、私が今まで集めてきた記憶の断片が、映像として頭の中で再生された。
途中には第二次世界大戦中に著者が土佐の浦戸に出征された体験も記されており、見慣れた風景が重なってつい読み込んでしまった。作中には出征してきた少年兵を寄宿させる長浜の松吉さんというおばあさんが登場する。
「おまん、なにしよるぜよ!兵隊じゃちち、これらは子どもぞね!」
少年兵たちに罰を与えようとする隊長を制止する松吉さんの強い土佐弁が印象深い。詳細な住所も分からないし、もう随分経つのに無性にその面影を辿りたいという思いに駆られ、グーグルマップで探してしまった。どうにかして話を聞けないものだろうか。
また、著者が宮本常一さんと出会う場面も描かれている。以前より私も民俗学に興味があり、宮本常一さんの本も読んだことがあったが、まさかここで登場するとは思わなかった。宮本さんとの出会いから著者の新たな旅が始まるのを見た時に、私はやはり民俗学という分野への興味関心をもっと追求すべきではないかと思わされた。
一時期は高知の物部村に伝わる民間信仰に興味を持ち熱中したこともあったが、表面的な知識を習得するに終わり、祖母から貰った本も押し入れにしまっている。
学ぶなら専門的に学びたい。私はそんな欲が出てきたことに嬉しくなった。著者の姫田さんは宮本さんを知った翌日にはアポを取って会いに行った。そして彼を受け入れた宮本さんは12時間もの間、話をしてくれたという。会いたい人に衝動的に会いに行けるような人生を歩みたい。
私はもっともっとたくさんの人と出会わなければいけないと思った。私自身の旅はこれから少しずつ始まるのかもしれない。